遺言書・遺産相続のQ&A集
トップページ ≫ Q&A集目次 ≫ 相続一般に関するQ&A:その2
2,何を相続できるのですか? (相続一般に関するQ&A:その2)


基本解説


原則として、相続開始時(被相続人の死亡時)に被相続人に属している一切の財産(権利義務)を相続することになります。土地・建物・家財道具・自動車・宝石類・預貯金・株式・借地権・借家権・商標権・著作権…など、ありとあらゆるものが含まれます。

また、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も相続されます。つまり、被相続人の借金も相続の対象となるのです。

ただし、例外として一身専属の権利義務は相続されません。

一身専属の権利義務とは、その人のみに属するとされる権利義務のことです。たとえば、被相続人が誰かの身元保証人になっていた場合、その身分保証人たる地位は相続されません。身元保証とはその個人の信頼に基礎を置くものであって一身専属性が強いとされているからです。

これに対し、通常の借金のための保証人たる地位(連帯保証なども含む)は相続の対象になる点に注意が必要です。

また、仏壇やお墓も相続の対象とはなりません。これらは慣習によって祖先の祭祀を主宰すべき者に引き継がれるのが原則です。


Q&A


Q1 損害賠償請求権も相続の対象となりますか?


A 損害賠償請求権も相続の対象となります。

たとえば交通事故で被相続人が死亡した場合、加害者に対して被相続人が有する、被相続人が生きていれば得られたであろう財産的利益(得べかりし利益)、入院費等の治療費、精神的損害(慰謝料)の賠償請求権を相続人が相続することになります。

なお、この結論については論理的に問題があり、かつての判例および学説等でも様々な議論がありました(今でも議論があります)。しかし、現在の判例は上記のとおりすべて相続の対象としています。これは相続人固有の損害賠償請求権との関係、および現在採用されている損害賠償額の算定方法との関係で、被相続人の損害賠償請求権を認め、これを相続の対象とした方がより妥当な結論が導き出すことができるからにすぎません。


Q2 香典や弔慰金も相続の対象となりますか?


A 原則として相続の対象とはなりません。

一般的に香典や弔慰金は葬式費用の一部を負担することを目的として葬儀主催者である喪主に贈られるものと考えられます。よって、相続の対象とはならず、他の相続人が分配を求めることはできません。

しかし、名目上香典・弔慰金となっていても、実質的には死亡退職金等の性格を有する場合もあります。その場合には、それぞれ実質的な性格に応じて相続の対象となることもあるでしょう。

Q3 生命保険金も相続の対象となりますか?


A 被相続人が自分自身を受取人としていた場合には、生命保険金請求権も相続の対象となります。

これに対し、被相続人が自分以外の者を受取人としていた場合には、被相続人の死亡により、その受取人に固有の権利として生命保険金請求権が帰属することになるので、それは相続の対象とはなりません。

つまり、ある特定の相続人を受取人に指定していた場合には、生命保険金請求権はその特定の相続人固有の権利なので相続の対象とはならず、他の相続人がそれについて分割を請求することはできないことになります。

しかし、今日の生命保険には積立貯蓄の性格を有しているものもあります。その場合には、受取人に指定された相続人は、被相続人から貯蓄財産の贈与を受けたのと同様の結果となると考えられます。そこで、貯蓄型の生命保険の場合には、相続人間の公平を図るべく、保険金の内の一定額(たとえば支払った保険料額、死亡時点での解約返戻金の額など)は、被相続人からの遺贈があったものとして、遺産分割協議において考慮されているようです。

これに対し、傷害保険の場合は、生命保険の場合と異なり掛け捨てで貯蓄性がないので、原則どおり被相続人自身を受取人としている場合にのみ相続の対象となり、それ以外の場合は相続の対象とはなりません。

なお、ここで相続の対象とはならないというのは、民法上のお話です。つまり、遺産分割の対象とはならないということです。これに対して、相続税法上は、生命保険金も傷害保険金もともに「みなし相続財産」とされ、相続税の対象となる点に注意が必要です。


Q4 死亡退職金も相続の対象となりますか?


A 一般的には相続の対象とはなりません。

一般的に、死亡退職金の受給者は、法律や会社の内規で定められているので、その受給者固有の権利として認められ、相続の対象とはなりません。

しかし、死亡退職金は、遺族の生活保障のための給付という性格だけでなく、被相続人の賃金の後払い的性格をも有していると考えられます。この賃金の後払い的性格からすれば、受給者は被相続人から財産の贈与を受けたのと同様の結果となると考えられます。そこで、貯蓄型の生命保険の場合と同様に、相続人間の公平を図るべく、死亡退職金の内の一定額は、被相続人からの遺贈があったものとして、遺産分割において考慮すべきでしょう。ただ、その一定額をどのように算定するかはケースバイケースであるとしか言いようがありません。

なお、死亡退職金が相続の対象とはならないと言っても、それは民法上の話に過ぎず、相続税法上は「みなし相続財産」として相続税の対象となるのは保険金の場合と同様です。


Q5 借金は必ず相続しなければならないのですか?


A 相続放棄をすれば、借金も相続しなくて済みます。

被相続人の財産のうち、プラスの財産に比べマイナスの財産の方が多い場合、そのまま相続すると損をすることになります。特に過大な債務超過の場合、相続の結果、被相続人が作った債務に押し潰されてしまう結果になりかねません。

このような場合には、相続人には相続を放棄するという選択が認められています。相続を放棄した者は、はじめから相続人とならなかったものとみなされるので、被相続人の債務に押し潰されなくてすみます。

相続放棄は、その旨を家庭裁判所に申述することによって行わなければなりません。債権者に相続放棄の意思を通知しただけでは相続放棄は認められないので注意が必要です。

また、この家庭裁判所への申述は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内になさなければなりません。3ヶ月経過後や相続開始前には相続放棄はできません。

なお、被相続人が作った借金に押し潰されないための手段として、相続放棄のほかに限定承認という選択肢もあります。限定承認とは、マイナス財産も相続するのですが、その弁済の責任はプラスの財産の限度においてのみ負うというもので、相続財産が債務超過になるかどうか微妙な場合に用いられることを想定したものです。

限定承認をしておけば、少なくとも損をすることはないので、一見、相続放棄よりも限定承認の方が合理的で優れている選択肢のようにも思えます。

しかし、実際は限定承認はあまり利用されていません(放棄の100分の1以下)。なぜならば、限定承認の手続はかなり面倒で費用もかかるからです。たとえば、相続放棄はそれぞれの相続人が単独で行うことができますが、限定承認は共同相続人全員で行わなければなりません(共同相続人のうち一人でも足並みがそろわないとダメです)。また、債権者や受遺者のための催告や清算のための相続財産の競売等もしなければなりません。

以上のことから、被相続人が作った借金に押し潰されたくない相続人がとる現実的な手段は、やはり相続放棄ということになるでしょう。